彫師の逆転無罪 〜『タトゥーは医療行為か、アート表現か』摘発事件からの流れと争点。

タトゥーに医師免許は必要か、彫師が逆転無罪

医師免許なくタトゥーを入れたとして、医師法違反の罪に問われていた増田太輝被告。罰金15万円の有罪判決を受けた控訴審で、西田基裁判長は一審判決を破棄し、無罪判決を言い渡した。

 高裁は弁護側の主張であるタトゥーを入れる行為は医療と関連性がなく、刺青は古くからの風習であり、装飾的ないし象徴的な要素や美術的な意義があり、医療行為に値しないと結論付けたのである。

一審では『タトゥーの施術は医療行為であり、医師が行わなければ皮膚障害やウイルス感染を引き起こす危険性がある』という指摘をされていたが、二審では『必要な知識は医師に求められるほど高度かつ広範なものではなく、限られた基本的なもので足りる』とした。

タトゥー摘発から高裁までの経緯

 経緯は、2015年「タトゥーは医業であり、医師免許亡くして営業するのは違法行為」として大阪・名古屋等大都市で彫師が摘発され続けたことから始まる。多くの彫師は数ヶ月間にわたる取り調べを受け、在宅起訴という形で罰金を支払い釈放された。しかし摘発された彫師の一人、増田被告は罰金を払うことを拒否、医師法違反容疑への無罪を訴え、国と争う選択肢を選んだのである。そして増田被告の刑事裁判が始まった。
 そして一年前の2017年9月27日、大阪地裁での判決は先に述べた通り検察側の主張に沿った内容であった。タトゥー施術を医療行為としてと認定し、増田被告に対し、罰金15万円の有罪判決を言い渡した。彼の弁護団の一員である亀石倫子弁護士はこう語っている。
「タトゥーは日本の社会で嫌われがちな存在です。今日の判決は『そんな人たちの権利や自由なんてどうでもいい』という社会を肯定するものです。多くの人は自分には関係ないと思うかもしれません。しかし、彫り師の職業の自由、表現の自由をないがしろにする社会の冷たさは、いつか私たちに返ってきます」
 閉廷後に、増田被告は即日控訴。争う場は大阪地裁から大阪高裁へと移った。
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法整備のためタトゥーの業界団体発足

 2018年1月15日、東京都内でタトゥー彫り師の業界団体が発足した。和彫りやタトゥーなど彫師の世界は師弟などの関係性が強く、派閥性があるとされている。しかし今は結束して、一つの業界団体として纏まらなければならないと、増田被告の弁護団の一員である吉田弁護士が協会設立を呼び掛けた。
 団体の目的は医師法とは独立したタトゥー関連の法整備である。呼びかけ人の一人でもあり、裁判で弁護人側の証人尋問にも立った立教大学大学院法務研究科の辰井聡子教授はタトゥーの規制の問題点を批判した上で、彫師の倫理基準の策定を提案したのである。
《この指針は、タトゥーの施術者が遵守すべき事項を定めることで、顧客の身体の安全性やその他の権利を保護し、顧客のニーズに応じたタトゥーの提供を可能にし、またタトゥー施術に対する社会的信頼を確保することを目的とする

医師法の適用範囲なら権利の侵害?

亀石弁護士は過去に医師法の適用範囲にタトゥーを含めるという解釈をするならば、その解釈は憲法違反であると語っている。タトゥーは医師法適用範囲に含まれるべきではない、ということだ。彼女の主張は『職業選択の自由の侵害』『自己決定権・幸福追求権の侵害』『表現の自由の侵害』である。

職業選択の自由の侵害』は彫り師への職業の自由に対する行き過ぎた規制のことだ。『自己決定権・幸福追求権の侵害』というのはタトゥーを彫りたいという側の自己決定権、幸福追求権を侵害していることについて訴えている。そして最後の『表現の自由の侵害』について、彫師は皮膚に彫る以外の代替手段がない。代わりにスケッチブックや壁を使うのは彫師ではなく、医師法適用範囲にタトゥーを彫ることが含まれれば、表現の場が奪われる。代替手段もない状態で完全に奪われるのであれば、それは表現の自由の侵害となる。

 今回、大阪高裁で増田被告は無罪を勝ち取ったが、おそらく検察は最高裁へ上告するであろう。だが2020年の東京五輪開催にあたり、訪日観光客数は大きく増加する。海外ではファッションとして徐々に定着しつつあるタトゥー文化が規制されている事を海外はどう捉えるのであろうか。過去、大阪地裁での開廷を前に、アメリカの大手ワシントンポストは増田被告の裁判を『日本のアーティストがタトゥーを見下す国に挑んでいる』という見出しで東京五輪へ向けて、日本が抱える重大な問題として取り上げている。他にもBBCやABC、世界中のメディアも注目している裁判である。ワシントンポストが彫師を『アーティスト』という言葉に置き換えているところをみると、『表現の自由』を職とするアーティスティックな分野への日本と欧米諸国の意識の違いが顕著に表れている。

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